最初に決めるのは、対象と比較する条件
会社全体の費用増を、そのまま一つの商品の値上げ率にしないことが大切です。 まず取引先と商品・サービスを絞り、現在の単価を決めた時期と、見直し時点を比較します。
数量、仕様、納品方法が違えば、単価の違いにはコスト上昇以外の理由も混ざります。たとえば「大口発注の昨年」と「小口発注の今年」を比べる場合は、発注量の変化による費用を分けて説明します。税込・税抜、円/個・円/時間などの単位もそろえてください。
| 決める項目 | 残す内容 |
|---|---|
| 対象 | 商品名・仕様、取引先、現行単価、対象となる注文 |
| 比較期間 | 現行価格の算定時点と、今回の見直し時点 |
| 数量・作業条件 | ロット、作業時間、納品頻度、送料の負担 |
| 資料の状態 | 確定した実績か、今後の見積もりか、不足する記録は何か |
見積もりしかない費用は「見込み」と記し、確定済みの原価と混ぜて断定しません。希望する適用時期と、既に受けた注文をどう扱うかも、契約と取引先への確認事項として残します。
根拠は、自社の原価と公表資料を分けてそろえる
中小企業庁の価格交渉・転嫁の支援ツールは、価格転嫁が必要な理由としてコストの上昇状況を明確に示す準備を挙げ、公表資料や相談窓口を案内しています。
ここから先の表は、その案内を踏まえて相談資料を整理するための提案です。公的機関が指定する提出書類の一覧ではありません。
| 費目 | 自社で確かめる資料 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 材料・仕入 | 仕入先の改定通知、見積書、請求書 | 同じ材料・単位か。商品1個に使う量はいくらか |
| 労務 | 社内の作業時間と費用の集計 | 時間単価と作業時間を分けたか。個人別給与を提示資料へ混ぜていないか |
| エネルギー・物流 | 電気・燃料の明細、運送見積もり | 単価の変化と使用量・配送回数の変化を区別したか |
| 共通の経費 | 原価表、経費の配分ルール | どの数量・時間で配分したか。同じ費用を二度数えていないか |
公表資料は、市場全体の動きを説明するために添えます。中小企業庁の公表資料の例には、賃金指数、企業物価指数、燃料価格などの資料が費目別に挙げられています。掲載されている過年度の値を現在の上昇率とせず、提供元で対象期間と品目を確かめてください。
市場の指数が上がった割合と、自社商品の原価が増えた割合は同じではありません。 比較期間が合わない資料や、自社と異なる材料の指数を無理に当てはめず、「どの費用の背景を説明する資料か」を書きます。原価の内訳がそろわない場合も、資料を推測で埋めず、確認できた範囲と不足点を持って相談できます。
月次表の照合ラボから、説明資料の確認方法を選ぶ
価格改定の理由を文章にまとめるだけでなく、主張ごとに元資料の箇所・比較期間・式・単位・確認状態を対応付ける方法を提案します。 この形を選ぶ手がかりは、hirostaの架空月次表の照合ラボで得た観察です。原価や価格交渉を試した記録ではありません。
ラボでは、架空の月次表13行から作ったグラフ2点と説明文3文に、期間・割合の分母・単位・表にない予測という4件の食い違いを意図して含めました。同じAIが想定表を参照できる条件で照合し、4件を指摘しました。未知の誤りの検出精度や、人による評価を示す結果ではありません。
初版は理由と計算値の列挙にとどまり、各指摘に元の行・列がなく、照合する人がセルを探し直す形でした。「人の確認待ち」も全体の注記だけで、行をコピーすると状態が抜けます。そこで、追加の指示で主張ごとに元の行・列、式と理由、状態を付けました。人が数字を承認したのではなく、AIの照合表の形を修正した記録です。
この観察を価格改定の資料へ応用すると、次のように確認項目を分けられます。右欄は今回の提案であり、価格改定資料で実施・評価した結果ではありません。
| ラボで観察したこと | 価格改定資料への応用(提案) |
|---|---|
| グラフの見出しと棒で対象月が違った | 「費用が増えた」という文ごとに、比較する両期間と元資料の該当行・列を残す。見積書なら日付・対象商品・明細箇所を対応付ける |
| 商品同士の比を構成比としていた | 「増加率」には分子・分母・式を添える。市場指数の上昇率、自社原価の増加率、希望する改定率を一つの割合として扱わない |
| 千円の値を円として説明していた | 元資料の単位と説明資料の単位を併記する。総額と円/個を比べるなら、割る数量と配分条件も残す |
| 元表にない予測の根拠をたどれなかった | 将来の原価や希望額を確定した実績と分ける。根拠がない場合は誤りと断定せず、資料不足として確認を止める |
理由だけの一覧では、別の担当者が比較条件を再現できるか、どこまで確認したかが残りません。そのため社内用の確認表では、上記の参照先と条件に加え、確認状態を各行に残し、AIの照合結果と人の承認を分けます。 計算が一致しても、費用の配分や見積もりの採用、取引先へ開示してよい範囲まで承認されたことにはしません。
ラボでも、記載上の計算が一致した説明文を含め、全件を人の確認待ちにしました。同じAIによる想定表との読み合わせであり、独立した評価や実運用での確認は未実施です。ここから原価計算の正しさ、交渉の成否、作業時間の短縮は判断できません。次の数値例も、このラボで照合したものではありません。
想定シナリオ:部品1個の原価が変わった場合
以下は架空の部品加工会社の例です。導入・交渉・検証は実施していません。同じ仕様、同じロット、同じ作業時間で、税抜・円/個にそろえて比較する想定です。共通経費は同じ配分ルールで計算し、電気代との重複はないものとします。
| 費目(円/個) | 従来 | 今回 | 増加額 |
|---|---|---|---|
| 材料費 | 400 | 460 | 60 |
| 労務費 | 300 | 330 | 30 |
| 電気代 | 50 | 60 | 10 |
| その他の経費 | 150 | 150 | 0 |
| 原価合計 | 900 | 1,000 | 100 |
現行の販売単価を税抜1,200円とすると、販売単価からこの原価合計を引いた額は300円から200円に下がります。原価増加分の100円を加えた税抜1,300円は、従来の差額300円を保つための相談案の一つです。利益率を同じにする計算ではなく、取引先が了承した価格でもありません。
担当者は各行に「元資料の参照先・比較年月・計算の前提・確認者」を付けます。経営者はその原価表を見て、希望額と再検討が必要な条件を決めます。取引先へ出す資料には、承認した費目別の増加額と説明を載せ、他社の単価や個人の給与などは含めません。
画面は、左に原価の比較表、右に資料の参照先と確認状態を置く程度から始められます。「確認済み」「見込み」「資料不足」を分け、資料不足の行をAIが補完した数字で埋めないようにします。
希望額・適用時期・相談後の確認を一枚にまとめる
原価差額が出たら、説明資料の先頭に次の内容を短くまとめます。
- お願いしたい内容:対象商品、現行価格と希望価格、希望する適用時期。
- 理由:比較期間と主な費目の変化、根拠資料の名前。
- 前提:数量・仕様・納品条件、確定値と見込みの区別。
- 相談したい点:価格、実施時期、ロット・納品頻度など検討する条件。
- 次の連絡:面談候補日、担当者、返答や再相談の希望時期。
値上げを通知しただけで合意済みとせず、相手の回答を記録します。全額を受け入れられない場合も、「相談中」「一部合意」「継続協議」などを分け、合意した額・対象・適用日と、持ち帰った論点を残してください。既存注文への反映や契約変更は担当者が確認してから進めます。
交渉に応じてもらえないなどの悩みは、中小企業庁の支援ツールページで案内されている相談窓口を確認してください。個別の契約・法令の適用は、専門家や公的窓口へ相談する範囲です。
AIに任せるのは整理と下書き。計算と開示は別に確認する
AIには、利用が承認された資料だけを渡し、「費目ごとの増加理由を短く整理する」「根拠のある行だけで説明文を作る」「不足資料を列挙する」といった下書きを任せます。入力してよい情報の判断は、顧客情報を生成AIに入力する前の確認を参照してください。
差額や合計は表計算などで計算し、人が元資料・単位・配分方法と照合します。AIに価格の決定、契約の適用判断、取引先への自動送信を任せません。根拠と案の分け方は、AIに経営の案を相談するときの確認でも説明しています。
準備に必要な期間は、比較できる原価表があるか、仕入先への確認や社内承認が必要かで変わります。面談希望日から逆算し、資料の回収、差額の確認、社内承認、相手への相談にそれぞれ担当と期限を置きます。費用は担当者の作業時間、使うツールの利用料、外部へ頼む資料整理や専門家相談を分け、固定の相場や短縮効果を前提にしません。
最初は既存の表計算と人の確認で進め、繰り返す転記・集計が負担になってから自動化を検討できます。経理AIのガイドや経理業務の支援内容を参考に、支援範囲・料金はサービス案内、具体的な困りごとは相談窓口で確認してください。業務ヒアリングとマニュアル作成の事例は、担当者の作業を整理する進め方の参考であり、価格交渉の成果を示す事例ではありません。