1. まず、法律の対象と明示する時点を確認する
フリーランス・事業者間取引適正化等法は、2024年11月1日に施行されました。公正取引委員会の案内では、対象となるフリーランスへ業務委託をした場合、取引条件を直ちに書面または電磁的方法で明示する必要があり、口頭だけでは認められないと説明されています。
ここでいう「業務委託をした日」は、作業を始める日ではなく、委託することを合意した日です(公正取引委員会Q&A・Q37)。電話で依頼し、着手日にまとめてメールを送る、という順序にしないよう、合意する前に必要な情報と送る文面を準備します。
「個人に頼むから対象」とは決めない
公式Q&AのQ2では、受注側の「特定受託事業者」を、従業員を使用しない個人、または代表者1人以外に役員がおらず従業員を使用しない法人としています。名称がフリーランス・個人事業主であることだけでは決まりません。
発注側では、取引条件の明示義務を負う「業務委託事業者」と、従業員・役員の要件により追加の義務を負う「特定業務委託事業者」を区別します。自社に従業員がいないことだけを理由に、明示は不要と判断しないでください。義務は発注側の体制や委託期間などで異なります。
担当者は、受注者に委託時点の従業員・役員の状況を確認した日と回答を残します。「従業員」の意味は日常の呼び方とは異なるため、公式Q&AのQ2・3・7を確認し、不明点は法務担当者・弁護士・公正取引委員会の相談窓口へ回します。契約名が業務委託でも、実態が労働者に当たる場合には労働関係法令の確認が必要です。
この記事は発注条件の準備と記録に絞ります。取適法との適用関係や、個別の契約条項の有効性までは扱いません。
2. hirostaの提案①:発注内容の確認表を作る
次の表は、公式の明示事項を確認するために、社内の準備項目も加えたhirostaの提案です。表を埋めただけで相手への明示が済むわけではありません。確認した担当者と、根拠になる見積り・仕様・合意の文面も一緒に残します。
| 確認する項目 | 発注前にそろえる内容 |
|---|---|
| 発注者・受注者と委託日 | 双方を特定できる名称、委託することを合意する日。作業開始日・メール送信日と区別する |
| 給付・役務の内容 | 何を頼むか。成果物の種類・数量・形式、作業範囲、含まない作業 |
| 納期・役務提供の期日 | 納品する日、またはサービスを提供する日。必要なら時刻もそろえる |
| 納品・役務提供の場所 | 納品先、または作業場所。オンライン納品なら提出先を特定する |
| 報酬 | 額、税込・税別の区別、諸経費の扱い。見積りとの相違を確認する |
| 支払期日 | 支払日を特定できる条件。「検収後に相談」などで曖昧にしない |
| 検査・検収 | 検査を行うか。行う場合の検査完了期日。社内の確認方法・担当者も決める |
| 支払方法 | 支払手段と、その方法に応じて明示が必要な事項を確認する |
公式Q&A・Q35にある明示事項には、双方の名称、委託日、内容、期日、場所、報酬・支払期日、検査を行う場合の検査完了日、現金以外で支払う場合の支払方法に関する事項があります。検収の「方法」や社内担当者を残すことは、この確認表で加えた運用上の提案です。
支払期日を文面に書くことと、その期日が法令上適切であることは別の確認です。自社に適用される報酬支払義務や起算日・例外は、公式資料と担当者・専門家に確認します。検査完了日を決めたことだけを理由に、支払日を自由に遅らせられると考えないでください。
決まらない事項は、空欄で流さない
公式案内では、内容を定められないことに正当な理由がある事項は、その理由と決まる予定日を当初の明示に含め、決まり次第、直ちに補充して明示するとされています。単なる記入漏れを未定事項として処理しません。
Q40の正当な理由は、取引の性質上、委託時点では決められないと客観的に認められる理由です。Q39でも、諸経費を別途協議とできる条件は限定されています。「報酬も納期も後で相談」と書けば足りるわけではありません。
社内では「未定の項目・理由・決定予定日・確認担当者」を残し、未定とできるか判断できない場合は合意前に相談します。AIに理由を作らせたり、不明な金額を埋めさせたりしないでください。
3. hirostaの提案②:確認表から、明示する文面の下書きを作る
メール・チャットの下書きには、確認表から確定した条件を移し、根拠資料と照合します。件名や冒頭に案件名を入れ、添付資料を使うならファイル名・版と、どの項目をその資料で示すかを分かるようにします。
公式Q&A・Q41では、電子メール、チャット、SMSなど、受信者を特定して送る方法が挙げられています。条件を本文に書くほか、条件を掲載したページのURLをメッセージに記載する方法も認められています。社内の共有場所に置くだけで終えず、相手が内容を確認できる形で送ります。
リンクを使う場合も、アクセス権と保存方法を確認し、送った時点の文面を残すことを提案します。共有ページだけを書き換え続けると、どの条件をいつ示したか分からなくなるためです。電磁的方法で明示した後に書面交付を求められた場合は、法令上の例外に当たる場合を除き、遅滞なく交付する必要があります。
想定シナリオ:商品案内の原稿を依頼する
以下は、架空の「会社A」が「受注者B」に商品案内の原稿を頼む、未実施の想定シナリオです。法律の対象かどうかの判定例や、あらゆる取引に使える契約書のひな型ではありません。
- 発注者・受注者:会社A、受注者B。委託することの合意日は2026年11月4日。
- 内容:商品案内の原稿1本、1,000字程度、編集可能な文書形式。画像作成・掲載作業は含まない。表現修正は1回分を含める。
- 納期・場所:11月10日17時までに、会社Aの発注担当者へ、このメールへの返信にファイルを添付して納品。
- 報酬・支払:税込33,000円。別途の諸経費なし。11月20日に銀行振込。
- 検査:会社Aの担当者が文字数・必須項目・合意した修正範囲を確認し、11月12日までに検査を完了する。
この例では条件を確定してから合意・明示に進みます。担当者は、金額と日程を自社の見積り・合意に置き換えるだけでなく、支払方法に応じた明示事項や、自社に適用される義務も確認します。
4. hirostaの提案③:送付と、相手の受け取りの記録を残す
送る担当を一人に決め、承認された文面・添付資料を送ります。同じ案件番号などで、次の記録を確認表と結び付ける方法を提案します。
- 送付の記録:送った日・時刻、方法、宛先、送信者、実際に送った本文・添付資料の版。下書きだけを保存しない。
- 受け取りの記録:配信エラーの有無、相手からの受領返信や内容に関する回答。確認できない場合は「未確認」と次の確認担当を残す。
- 保存先:送信済みメールやチャットの該当箇所と、送付時点の内容を保存したファイル。担当者が替わっても探せる、アクセスを制限した場所に置く。
Q41は、相手の端末がメッセージを受信したときや、クラウド等で相手が内容を確認できる状態となったときの明示を説明しています。受領返信を残すことは、hirostaが提案する運用上の確認であり、返信そのものを一律の法定要件とする説明ではありません。 また、受領返信と、条件に合意した記録は分けます。
公式Q&Aも、削除や閲覧不能に備えて双方で発注内容を保存することを勧めています。再送する場合は送信履歴を確認し、「同じ条件の再送」か「条件変更」かを明記します。
5. hirostaの提案④:変更・追加は、元の文面を上書きせず残す
納期・内容・報酬が変わるときは、変更前後の条件、理由、合意した日、適用する範囲、送付・受け取りの記録を別に残します。未定事項を補充した場合も、元の明示と対応付けます。
想定シナリオで会社Aが原稿をもう1本頼みたい場合、担当者は「修正1回の範囲」と決めつけず、追加の内容・報酬・納期・支払期日を受注者Bと確認します。元の原稿と追加分を区別し、同じ原稿を重複して発注しないよう履歴を確認します。
Q42では、すでに明示した内容をさらに詳細にした場合について、必ずしも改めて明示が必要とは限らないと説明しています。今回の提案は、法令上の再明示の要否を一律に決めるものではなく、後から決めた内容も相手へ伝え、記録を結び付ける運用です。変更自体の適法性に疑問がある場合は、文面作成だけで進めず専門家等へ確認します。
6. AIは抜けの洗い出しと下書きの補助に限る
AIには、機密情報を除いた確認表から「空欄や曖昧な表現を列挙する」「確定済みの条件だけでメールの下書きを作る」という補助をさせます。数字・日付・宛先は、人が元資料と照合します。送信と条件の確定は人が行います。
相手が法律の対象か、発注者の義務がどこまでかをAIに確定させません。 未定とする正当な理由、支払期日の適法性、労働者に当たるかなども、確認が必要な事項として残します。AIが出した「問題ありません」を承認記録の代わりにしないでください。
帳票の転記・承認・送付をどう分けるかは見積書・発注書・納品書の記事、システム改修の依頼先や引き継ぎ資料は外注した業務システムの記事で扱っています。この記事の確認表は、その前段で発注条件と明示の記録をそろえるために使ってください。