棚卸しは、数を合わせる前に現物と記録を確かめる
中小機構 J-Net21の解説では、現物の数量把握、帳簿数量の修正、在庫管理の有効性の確認が説明されています。品名・所在場所と数量欄を備えたリストで現物を確認し、結果を記録する流れも示されています。
差が出たときに、帳簿の数だけを実数へ書き換えると、何を確認して直したのか分からなくなります。ここからは、差のある品目を調べるためのhirostaの提案する手順です。すべての差に同じ原因があるとは考えず、品目ごとに確認します。
まず、比較に使った帳簿の一覧と棚卸表を、日時・版が分かる形で保存します。棚卸しの基準日時、数えた日時、対象の場所、品目コード、単位をそろえてください。数えている間も入出庫がある場合は、その動きを別に記録し、基準日時の数量と比較できるようにします。
1. 数え方を確認する:範囲・単位・入り数をそろえる
差のある品目は、最初に現物を数え直します。可能なら別の担当者に、帳簿の数に合わせずに数えてもらいます。次の点を順に確認してください。
- 範囲:通常の棚だけでなく、別倉庫・作業場・返品の仮置き場など、対象とした場所を数えたか。預かり品など、対象外の品物が混じっていないか。
- 品目:似た名前でも、品目コード・規格・サイズが同じか。別の品目へまとめていないか。
- 単位と入り数:「箱」と「個」を混ぜていないか。1箱の入り数を確認し、開封済みの箱は中身を数えたか。
- 漏れと重複:棚の奥や別置きの品物を数え忘れていないか。移動中の品物を両方の場所で数えていないか。
返品待ち・預かり品などを在庫に含めるか判断できない場合は、その数量と状態を分けて記録し、担当者に確認します。数え直し前の数は消さず、誰が・いつ・どの場所を数え直したかと一緒に残します。
2. 締めの時点を確認する:現物と記録は同じ時点か
同じ品目・単位でも、棚卸しの基準日時と帳簿の集計時点が違えば、単純には比較できません。基準日時の直前・直後の入荷・出荷・返品・倉庫間の移動について、次を照合します。
- 現物が動いた日時と、動いた数量を確認する。
- 伝票の日付・入力日時と、その記録が帳簿の集計に含まれたかを確認する。
- 現物と記録が、基準日時の前後どちらに入っているかを品目ごとに並べる。
たとえば、翌朝に出荷した分が前日の帳簿からすでに引かれていると、前日夕方に数えた現物とずれることがあります。逆に、数えた後の入荷分を加えた帳簿と比べる場合もあります。伝票の日付だけで決めず、現物の動きと集計条件を確かめてください。
社内の締めのルールが不明なら、担当者に確認してから比較します。差を消すために日付を付け替えたり、根拠のない入出庫を追加したりしません。
3. 記録の漏れ・誤りを確認する:伝票から入力をたどる
数え方と時点をそろえても差が残る場合は、入出庫の伝票・返品の記録・移動の記録と、帳簿への入力を照合します。
| 確認する点 | 見比べる内容 |
|---|---|
| 記録漏れ | 伝票はあるのに、対応する入庫・出庫が未入力になっていないか |
| 重複 | 同じ伝票を二度入力していないか |
| 品目・数量の誤り | 品目コード、数量、箱と個の換算、入庫と出庫の方向が合っているか |
| 返品・取消 | 元の処理と訂正の対応が分かり、片方だけ残っていないか |
| 場所の移動 | 移動元と移動先の記録が対応しているか |
書類を作る流れ自体の整理は、見積書・発注書・納品書の確認手順で説明しています。この記事では、発行・送付の自動化まで広げず、棚卸しの差と関係する記録に絞って照合します。
4. 保管中の変化を確認する:破損・紛失を決めつけない
ここまでで説明できない差は、破損品や廃棄待ちの品物の有無、保管場所の変更、持ち出し・廃棄の記録などを確認します。差があるだけで「紛失した」「不正があった」と確定しません。破損していても数量として残っている品物は、数量と状態を分けて記録します。
説明できない分は、確認した範囲・残る差・未確認の事項を責任者に報告します。原因が分からないまま理由を作らず、調整の要否と扱いを相談してください。評価方法や損失の処理などは、在庫・経理の担当者や税理士に確かめる事項です。
想定シナリオ:帳簿100個、現物90個だったら
架空の卸売会社「サンプル商店」で、架空の品目「部品A」を確認する未実施の例です。数量もすべて架空です。
棚卸しの基準は12月末日17時。帳簿は100個、最初の棚卸表は90個でした。この時点で「10個を紛失」とは決めません。
- 数え方:品目コードと1箱10個の入り数を確認し、9箱のうち開封済みの箱も数え直します。結果は90個で、対象の場所にも数え漏れはありませんでした。
- 締めの時点:17時より前に10個を出荷した記録があり、翌日に入力されたため、保存した帳簿の一覧に反映されていないことが分かりました。
- 記録:出荷伝票、現物を引き渡した記録、入力内容を照合し、その10個が同じ出荷であることを担当者が確認します。
- 調整の記録:担当者は、この例の差の理由を「基準日時前の出荷10個が帳簿一覧に未反映」と記録します。既存の出荷記録の反映方法を確認し、別の数量調整で同じ10個を二重に引かないようにします。
この例では時点のずれで説明できましたが、すべての差が同じ理由とは限りません。説明できない差が残れば、保管中の変化の確認へ進みます。
帳簿を直す前に、確認内容と理由を残す
差異の記録には、少なくとも次を残すことを提案します。帳簿を直す操作は、社内の権限・承認の手順に従ってください。
- 品目コード・単位・場所・基準日時、元の帳簿数量と棚卸数量、数え直した数量
- 照合した伝票や記録の番号、確認した事実、説明できた差と残る差
- 調整する理由と数量、未確認の事項、確認者・承認者・処理日
- 実際に行った訂正や調整の記録番号、処理後の照合結果
確認中・承認待ち・処理済みを分けると、誰かが調整済みの品目を再び直すことに気付きやすくなります。元の記録を上書きで失わず、入出庫の訂正と棚卸しによる調整が重複していないか、処理後にも確認します。
AIは差の一覧や確認点の下書きに使う
同じ品目コード・単位・基準日時にそろえた表なら、差の計算や抽出は、まず表計算や在庫ソフトの既存機能を使います。方法の選び方は表計算の集計自動化をご覧ください。
AIを使う場合は、次の補助に限ります。出力は担当者が元の表や伝票と照合します。
- 棚卸数量と帳簿数量を並べた表から、差のある品目の一覧の下書きを作る。
- 入出庫の記録から、基準日時の前後に当たる記録の候補を抜き出す。
- 品目ごとに未確認の点を整理し、担当者向けの確認一覧の下書きを作る。
在庫数量の確定、差異の原因の確定、帳簿を調整する判断はAIに任せません。 読み取り違いや抽出漏れも確認し、元の記録にない数量や理由は補わせません。AIから帳簿へ自動で書き戻す流れにはしないでください。
非公開の在庫・取引データを無条件にAIへ渡さず、社内ルール、利用サービスの契約・設定、入力が許される範囲を先に確認します。経理業務全体での役割の分け方は経理業務とAIで説明しています。