1. 人材開発支援助成金とは

雇用保険の適用事業所の事業主が、雇用する従業員(雇用保険の被保険者)に、職務に関連した訓練を計画に沿って実施した場合に、訓練にかかった経費や、訓練期間中の賃金の一部を助成する制度です。

2026年度(令和8年度)は、人材育成支援コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コースなど、複数のコースがあります。AI研修に特に関係するのは、次に説明する「事業展開等リスキリング支援コース」です。

研修を探す前に、誰が、どの職務で、何をできるようになるために学ぶかを整理しましょう。研修名や「助成金対応」という案内だけでなく、カリキュラムと受講者の担当業務を照合することが出発点です。

2. 事業展開等リスキリング支援コース

概要

新しい事業への展開や、社内のデジタル化・DXを進めるために必要な知識・技能を身につける訓練などを支援するコースです。令和8年度末(2027年3月31日)までの時限措置とされています。これは制度の実施期間であり、すべての研修の申請期限が同じ日という意味ではありません。個別の開始日・終了日から提出期限を確認してください。

助成率・助成額

企業規模 経費助成 賃金助成(1人1時間あたり)
中小企業 75% 1,000円
大企業 60% 500円
  • eラーニング、通信制、定額制サービスによる訓練などは、経費助成のみです。
  • 1人1訓練あたりの経費助成には上限があり、訓練時間によって変わります(中小企業の場合、10時間以上100時間未満で30万円など。eラーニング・通信制は15万円)。

主な要件

  • 職場を離れて行う訓練(OFF-JT)であること
  • 実際の訓練時間が10時間以上であること
  • 新規事業の展開や、社内のデジタル化・DXなどのために必要な、専門的な知識・技能を身につける訓練であること

雇用保険の適用事業所であること、受講者がその事業所の雇用保険被保険者であることなど、事業主・社員側の要件もあります。社内研修では実施方法と講師の要件も確認が必要です。eラーニングなどは時間の算定方法が異なるため、講座の表示時間だけで判断せず、公式パンフレットで確認してください。

3. 対象になるAI研修・ならないAI研修

2026年8月3日の改正で、デジタル化の訓練であっても、職務に間接的に必要な内容や、職種を問わず共通して必要な内容は対象外であることが明確になりました。厚生労働省の資料では、次のような例が示されています。

対象になり得る研修の例 対象外とされる研修の例
営業担当者が、生成AIを使って商品提案書の構成案づくり・文章生成・修正の方法を学ぶ研修 生成AIを使うための汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ研修
DXの概念や、デジタル技術の概要を学ぶだけの研修

上の表は厚生労働省の改正リーフレットの例を要約したものです。営業担当者向けの例に似ていても、自社の研修の対象可否や支給を保証するものではありません。

つまり、特定の職務で生成AIをどう使うかを学ぶ、実務に直結した研修であることが大切です。受講者の職務との関連性は、雇用契約書や訓練カリキュラムなどで確認されます。社員全員を一律に受講させる前に、担当業務と学習内容が合うかを確認してください。

また、次のものは対象になりません。

  • デジタル機器の初歩的な操作だけを学ぶ研修
  • 既存のアプリやシステムを購入して、その操作方法を学ぶだけの場合
  • コンサルタントによる経営改善の指導や、通常の事業活動として行うマニュアル作成・作業環境の構築や改善

対象外の内容を含む場合、その時間を除いても必要な訓練時間を満たすか確認します。事業展開等リスキリング支援コースのeラーニングによる訓練は、同じ従業員につき1年度に1回までとされています(2026年8月3日以降に提出する計画届に基づく訓練。経過措置あり)。ここでの年度は支給申請日を基準とします。改正前の契約などは扱いが異なる場合があるため、管轄の労働局へ確認してください。

研修と伴走支援を分ける

社員が技能を習得するための訓練と、支援者が業務を改善したりシステムを作ったりするサービスは、目的が異なります。「使い方の説明が含まれる」「研修とセットで契約する」というだけで、支援費用全体が訓練経費になるわけではありません。

  • 訓練の例:営業担当者が提案書の下書き・修正方法を学ぶ。カリキュラム、訓練時間、講師、受講記録などを確認する。
  • 伴走支援の例:業務を整理し、自動化の仕組みや運用手順を作り、使い始めた後も調整する。訓練と混同せず、支援内容と費用を分けて確認する。

hirostaの月額の伴走支援は、助成対象となる訓練にはあたりません。支援内容・料金はサービスページをご覧ください。関連する事例は業務改善の参考であり、助成金を利用した研修実績を示すものではありません。

4. そのほかのコース

  • 人への投資促進コース:高度なデジタル人材の育成(一定レベル以上のITスキルの資格取得を目指す課程など)や、定額制(サブスクリプション型)の研修サービスの利用などを支援します。こちらも令和8年度末までの時限措置とされています。
  • 人材育成支援コース:職務に関連した10時間以上の一般的な研修(OFF-JT)などを支援します。

どのコースが合うかは、研修の内容や従業員の状況によって変わります。

5. 申請の流れ

申請前に人が確認すること

まず次の資料をそろえ、制度上の要件は管轄の労働局、手続きの委託は社会保険労務士に確認しましょう。

  • 経営者・部門責任者:研修を受ける社員の担当職務、学ぶ技能、事業展開やDXの計画との関係を整理する。
  • 研修担当者・研修事業者:カリキュラム、対象外の内容を除いた時間、実施方法、講師、出席・修了を記録できる方法を確認する。
  • 人事・経理担当者:雇用保険の加入状況、訓練中の賃金、研修費の内訳・支払い、他の助成との重複、過去の受講回数を確認する。
  • 申請担当者:開始日・終了日から提出期限を逆算し、適用される改正・様式と変更届の要否を労働局に確認する。研修事業者の説明だけで支給を前提に契約しない。

準備から支給申請まで

  1. 準備:職業能力開発推進者を選び、事業内職業能力開発計画を作って従業員に周知します。
  2. 計画届の提出:訓練を始める日の6か月前から1か月前までに、管轄の労働局に訓練の計画届を提出します。
  3. 訓練の実施:計画に沿って訓練を行います。訓練の経費は、事業主が全額を負担します。
  4. 支給申請:訓練が終わった日の翌日から2か月以内に、支給申請をします。
  5. 審査・支給:支給申請の後に審査が行われます。計画届を出しただけで、支給が確定するわけではありません。

電子申請を使う場合は「GビズID」が必要です。

上記は通常の訓練の流れです。定額制サービスによる訓練の計画届は原則として契約期間の初日の1か月前までで、eラーニングなども契約期間・修了日に応じた扱いがあります。研修費は支給申請までに全額を負担する必要があり、助成金の入金を待たずに支払える資金を準備してください。

6. 注意点:不適切な勧誘と不正受給

厚生労働省は、人材開発支援助成金の不適切な勧誘について注意を呼びかけています。AIに関係するものとして、特に次の点に注意してください。

  • ツール導入費と訓練経費を混同しない:AIツールの導入費を、研修とセットという理由だけで訓練経費に含めることはできません。2026年度には別要件の「設備投資加算」がありますが、中小企業、訓練との関係、賃金引上げなどの条件と別途の計画・申請が必要です。通常の経費助成とは分けて労働局に確認してください。経営コンサルタント料・相談料・顧問料などは、この加算でも対象外です。
  • 「実質無料」は不正受給につながる:キャッシュバックなどで研修費用を実質無料にすることは、不正受給にあたります。不正受給があった場合は、事業主名の公表や、返還金への違約金の上乗せ、一定期間の不支給などの措置があります。
  • 申請の代行は社会保険労務士の業務:この記事で扱う人材開発支援助成金(労働社会保険諸法令に基づく助成金)の申請書の作成・提出の代行は、社会保険労務士の業務です。社会保険労務士ではない研修事業者などが、報酬を得て行うことは禁止されています。

7. 広島県の支援制度

広島県には、人材開発支援助成金の申請事務を社会保険労務士などに委託する費用の一部を補助する制度(令和8年度 広島県人材開発支援助成金活用支援補助金)があります。対象者の要件や、交付決定を受けるタイミングなどの条件があるため、広島県の公式ページでご確認ください。

これは研修費そのものの補助とは別の制度です。新たな委託契約を結ぶ日、または既存の顧問に申請業務を依頼する日までに交付決定を受け、2027年3月31日までに申請業務と報酬の支払いを完了する必要があります。依頼後に申請すればよいと考えず、先に県へ条件を確認してください。

8. よくある質問

Q. 生成AIの研修なら、どれでも助成金の対象になりますか?
いいえ。特定の職務で生成AIをどう使うかを学ぶ、実務に直結した研修であることが求められます。汎用的なプロンプトの作り方だけを学ぶ研修などは対象外とされています。

Q. 社内で行う研修も対象になりますか?
対象になる場合があります。ただし、社内で行う研修は通学制や同時双方向の通信訓練に限られ、講師の要件などもあります。詳しくは労働局にご確認ください。

Q. 10時間以上のAI講座なら対象ですか?
時間だけでは決まりません。職務との直接の関連性、対象者、実施方法などの要件も必要です。対象外の内容を含む場合は、その時間を除いて必要な訓練時間を満たすか確認してください。

Q. 計画届を提出したら、助成金は支給されますか?
提出だけで支給は確定しません。研修の実施・費用の負担・必要書類などを支給申請後に審査します。支給されない場合も考え、自己資金で研修費を負担できるか確認してください。

Q. 2027年度以降もこのコースは続きますか?
事業展開等リスキリング支援コースは、令和8年度末までの時限措置とされています。2027年度(令和9年度)以降の内容は、厚生労働省の発表をご確認ください。

Q. hirostaの支援は助成金の対象になりますか?
hirostaの月額の伴走支援は、業務の自動化の仕組みづくりと定着の支援であり、この助成金の対象となる「訓練」にはあたりません。助成金を前提としたご提案は行っていません。