1. 検索方式の違い:語で探すか、意味の近さで探すか
検索方式は、資料の書き方と、利用者が何を尋ねるかに合わせて選びます。 AIが資料をもとに回答する際には、まず根拠にする候補を探す工程があります。候補を見つけることと、その本文に沿って正しく答えることは別の工程です。
キーワード検索は、質問と資料に含まれる語を手掛かりに探します。BM25は、その関連度を順位づけする方法の一つです。資料名や規程番号など、探したい語が分かっている質問で候補を絞る際に使えます。ただし、キーワード検索だけで番号や日付の厳密な一致まで保証されるわけではありません。
ベクトル検索は、質問や資料を数値で表し、その近さを使って候補を探します。同じ語が含まれていなくても、意味が近い表現を見つけるために使えます。一方で、意味が近いことは、質問の条件に合う資料であることを保証しません。
両方の候補をまとめる方法は、ハイブリッド検索と呼ばれます。Microsoftの公式資料も、番号や日付などの検索と、概念の近さによる検索の役割の違いを説明しています。この記事では一般的な考え方を参照しており、社内の比較がAzure AI Searchで実施されたという意味ではありません。
資料の版・閲覧権限・更新担当など、導入全体の準備は社内資料から答えるAIチャットの準備をご覧ください。ここでは、検索方式を選ぶ判断に絞ります。
2. 比較条件:何を、どう数えたか
対象は、hirostaが社内で開発している、学習記録を扱うAI相談です。2026年10月10日の探索的な比較では、期待する記録がある154問と、存在しない記録や対象違いを尋ねる20問を合わせた174問を用いました。
主な集計は、期待する記録がある154問から日付の曖昧な46問を除いた108問です。「期待する記録が検索候補の上位5件に入るか」を数えました。 候補に入った記録をAIが正しく引用したか、最終的な回答が正しかったかを数えたものではありません。
キーワード検索にはBM25を使い、ベクトル検索を併用する条件ではE5・Ruri・MiniLMを比較しました。モデル名は比較の条件を示すためのもので、今回の結果だけでモデル全般の優劣を決めるものではありません。
3. 結果:併用すれば一致が増えるとは限らなかった
次の表は、2026年10月10日の比較で、主な集計対象108問について、期待する記録が検索候補の上位5件に入った割合です。すべて同じ数え方であり、回答の正解率ではありません。
| 検索方式 | 上位5件に期待する記録が入った割合(108問) |
|---|---|
| キーワード検索(BM25) | 84.3% |
| キーワード検索+ベクトル検索(E5) | 82.4% |
| キーワード検索+ベクトル検索(Ruri) | 80.6% |
| キーワード検索+ベクトル検索(MiniLM) | 74.1% |
今回の条件では、キーワード検索だけの方が一致する割合は高くなりました。併用すると、キーワード検索では上位5件に入っていた期待する記録が押し下がる例がありました。「候補を増やすこと」と「必要な候補を上位に残すこと」は、同じではありません。
同日の比較で、主な集計対象108問のうち、ID・予定・訂正を聞く質問は、キーワード検索で全件、期待する記録が上位5件に入りました。これは該当する質問群での検索候補の一致を指し、回答がすべて正しかったという意味ではありません。
言い換えを含む質問48問についても、同じ上位5件の数え方で、キーワード検索は32/48、E5を併用すると30/48でした。言い換えがあるという理由だけで、併用が有利になるとは判断できませんでした。
4. 限界:この比較だけでは決められないこと
今回の108問は互いに独立ではありません。同じ記録や似た問いの影響があり得るため、割合の差だけで一般的な優劣を断定できません。また、日付の曖昧な46問は主な集計から除いています。日付が曖昧な質問への対応まで、この表で確認できたとは扱いません。
一つの社内データでの探索的な比較であり、会社の規程・手順書を使った導入効果の測定ではありません。資料の分け方、質問の傾向、候補をまとめる方法が変われば結果も変わり得ます。この比較から、利用者の作業時間、運用費用、回答の正解率は分かりません。
「記録がない」場合も別に確認が必要です。同日の比較で、存在しない記録や対象違いを尋ねる20問では、ベクトル検索だけだと全問で何かしら近い候補を返しました。これは検索候補の有無であり、20問すべてにAIが誤回答したという結果ではありません。
近い候補が返ったことを、根拠がある証拠にしないようにします。IDや日付を厳密に照合し、候補の本文で「記録なし」を判断する工程が要ります。この記事では、この点を検索方式の選択に必要な注意として扱います。照合・本文確認と「記録なし」の返し方は別の記事で説明しています。
5. hirostaの判断:記録の単位と案内を先に改善する
今回の比較から、まず記録の単位で検索し、キーワード検索と正しい資料への案内を改善する方針にしました。ベクトル検索は補助として扱い、別の質問で追加評価します。これは今後の改善方針であり、本番の検索方式を変更して効果を確認したという報告ではありません。
社内資料なら、似た文章を拾うだけでなく、どの規程のどの手順か、いつ適用される内容かを確認できる単位を考える必要があります。以下は読者の会社への当てはめ方の提案で、今回の社内比較で実行した工程ではありません。
- 必要な資料を決める:代表的な質問ごとに、担当者が期待する資料・該当箇所・適用条件を決めます。
- キーワード検索で探す:資料名・番号・用語から候補を探し、見つからない質問と、別の版や対象が混ざる質問を分けます。
- 見つからない理由を直す:検索する資料の単位、用語の表記、正本へのリンクを見直します。番号・日付・対象の確認は、意味の近さと分けて扱います。
- 併用を同じ質問で比べる:言い換えで見つからない質問に改善があるか、キーワードで見つかっていた資料が押し下がらないかを見ます。方式を調整した後は、調整に使っていない別の質問でも確認します。
- 回答と出典を別に確認する:候補の一致だけで導入可否を決めず、担当者が回答本文・版・出典へのリンクを照合します。根拠がなければ人へ戻す運用も確認します。
6. 想定シナリオ:規程番号と、現場の言い換えが混ざる会社
以下は社内資料を使う架空の想定シナリオで、実際の質問文や検証結果ではありません。
備品申請の手順を案内する会社を考えます。「備品申請規程の申請先」のように資料名が分かる質問は、キーワードで正本を探し、該当する手順へのリンクを示すところから試せます。旧版が混ざる場合は、検索方式を足す前に、適用日と検索対象を整理します。
一方、「仕事用の道具を買いたい」のように資料の用語と違う表現で見つからないなら、表記やFAQを整える方法と、ベクトル検索を補助にする方法を比べます。近い経費精算の資料が出ても、備品申請の根拠として使えるかは本文と条件を照合します。
この会社で併用が役立つかは未確認です。今回の社内比較の割合を予測値にせず、自社の質問と期待する資料の組み合わせで判断します。資料の準備や窓口への引き継ぎは導入準備の記事、支援範囲と料金はサービス・料金で確認できます。