1. 何を試したか
2026年11月4日の18時ごろ、同じ質問を3回、互いの答えを見せずに別々のチャットで尋ねました。会社は株式会社みなと食品工業という架空の会社で、実在の会社・人物とは関係がありません。3回答を得た後、作業担当のAIが公式資料との照合を行った検証ラボの記録です。
聞いたのは「この会社は一般型の第9回公募を使えるか。使えるなら上限額・補助率・申請までの準備も教えてほしい」という質問です。伝えた条件は次のとおりです。
| 項目 | 質問で伝えた条件 |
|---|---|
| 会社 | 広島県の惣菜製造業。資本金1,000万円、2012年設立、直近決算は黒字 |
| 従業員 | 28人、うちパート10人。事業所内で一番低い時給は1,110円 |
| 投資 | 盛り付けと包装を自動化するロボット・画像検査。費用約3,000万円、見積り取得済み、未発注 |
| 過去の補助金 | 2024年にものづくり補助金の交付決定。事業は完了済み |
| 準備状況 | GビズIDプライム未取得、一般事業主行動計画なし |
| 賃上げ | 具体的な計画なし。年2%程度なら上げられそう |
会社の株主構成、前回補助金の入金、過去の月別賃金台帳、設備の専用設計の詳細までは伝えていません。
2. 照合の方法と数え方
基準は第9回公募要領、FAQ(第5回〜第9回)、公式のスケジュール、広島県の最低賃金の案内です。以下の「要領」は第9回を指します。ページは表紙から数えるPDFの通しページで、要領は本文の印字ページとも一致します。FAQは回ごとに回答が分かれるため、共通または第9回を含む項目を選びました。
制度の条件・数値・日付・会社への当てはめのうち、独立して照合できるものを1主張に分けました。期間・割合・人数・金額、提出書類の種類は別に数え、同じ回答内の言い直しはまとめています。同じ主張が別の回答にあれば、それぞれ1件です。単なる助言、質問した会社情報の反復、参照リンクの存在は除きました。
判定は次の4つです。
- 正しい:記載された条件の範囲で公式資料と一致する。
- 誤り:公式資料の条件や数値と食い違う。
- 公式資料で確かめられない:選んだ資料に裏付けがない、または会社の情報が足りず当てはめを確認できない。誤りと確定した意味ではない。
- 古い回の情報:旧回の条件を第9回の条件として適用している。旧回との違いを説明するだけの言及は含めない。
一般則が正しくても、例外や追加条件が省略されている場合は「抜け」として別に数えました。抜けは今回の計画に関係する35要件に範囲を絞り、要件ごと・回答ごとに1件としています。制度全体の網羅性を測る数ではありません。
「ぶれ」は結論の強さ・数値の意味・条件への言及の差を、同じ判断軸ごとに1件としました。矛盾だけでなく説明範囲の差も含み、単なる書類例・加点例の追加は除きます。
3. 結果:主要数値は一致しても、申請可否は未確定
表は左右にスクロールできます。合計は回答別の延べ件数です。
| 回答 | 主張総数 | 正しい | 誤り | 確かめられない | 古い回 | 抜け | ぶれへの参加 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 答え1 | 102 | 97 | 0 | 5 | 0 | 34 | 6 |
| 答え2 | 99 | 92 | 1 | 6 | 0 | 30 | 6 |
| 答え3 | 90 | 85 | 0 | 5 | 0 | 35 | 6 |
| 合計(延べ) | 291 | 274 | 1 | 16 | 0 | 99 | 18 |
抜けの異なる要件は35種類、ぶれの異なる軸は6種類です。同じ抜け・ぶれが複数の回答に関係するため、延べ件数とは一致しません。主張の切り分け方と、どこまでの不足を抜けとするかで数字は変わります。
3回答とも、28人が要領上の常勤従業員数に当たる場合の通常上限3,000万円・補助率1/2、最低賃金特例なら2/3は一致しました。税抜3,000万円が全額対象という前提での補助額1,500万円・2,000万円も同じです。根拠は要領8〜12・24ページです。
一方、会社の申請可否は確定できません。資本金が規模要件に合うことと、対象外条件に当たらないことは別です。要領17〜19ページの株主・役員の関係や、過去の補助金の支払状況などを確かめる情報が不足していました。
誤り:500万円は「対象経費」ではなく「補助上限額」
答え2は、機械装置・システム構築費以外の経費を「合計500万円まで」と説明しました。要領24ページは、これらの経費の総額について補助上限額を500万円としています。
対象経費の額と、そこへ補助率を掛けた後の補助額は異なります。この説明だけで見積りを削ると、対象経費の範囲を狭く読んでしまいます。費目ごとの上限や対象外条件も、要領19〜24ページで別に確認します。
確かめられなかった主張の例
| 主張・回答 | 確認が残った理由 | 根拠 |
|---|---|---|
| 申請可能性の結論(全回答) | 対象外条件まで確認する会社情報が不足。答え3の「ほぼ確実」は特に強い表現 | 要領14・17〜19ページ |
| 時給1,110円なので最低賃金特例に当たる可能性(全回答) | 必要なのは現在の最低時給だけでなく、対象期間の月別賃金・人数 | 要領12ページ |
| 10月11日以降の差額支払義務まで断定(全回答) | 広島県の案内で基準額は確認できたが、個別の算入賃金・許可・精算までは選定資料だけで判断できない | 広島県の最低賃金の案内 |
| 行動計画の掲載は「2週間以上かかる」(答え2・3) | 要領は2週間程度、FAQは1〜2週間程度。「2週間以上の余裕を取る」と所要期間の下限は別 | 要領10〜11ページ、FAQ8ページ No.97 |
| この設備は自社向けに設計され対象に合う(答え3) | 質問には専用設計の詳細がない。設備の組み合わせだけでは確定できない | 要領6・11・29ページ |
広島県の案内で、地域別最低賃金が2026年10月11日から1,141円であることは確認できました。通常の基準が適用されるなら、1,110円は下回ります。この数値の照合と、個別の法的な判断は分けました。
答え1の「+30円をずっと維持」という表現や、オンラインでのGビズID取得の方が早いという説明、答え2の2027年春以降の発注見通しも、選んだ資料だけではそのまま確定できませんでした。
「古い回」は0件です。答え2にあった1,500万円超の部分の補助率1/3への言及は、第9回には適用していません。ただし、補足確認した第8回要領9ページにもその記載はなく、「第8回以前」のどの版の条件かは今回特定できませんでした。この点は「確かめられない」に数えています。
4. 抜け:対象外条件と、申請を進める体制が残った
全回答が、ものづくり補助金の事業完了と入金完了は別と説明した点は、要領18ページと合っていました。それでも、次の確認は残りました。
表の回答番号は、その要件の説明が不足していた回答です。一般則への言及があっても、必要な追加条件を省いていれば含めています。複数の条件をまとめた行は、全条件が説明されて初めて「説明あり」と数えました。
| 要件の確認項目 | 不足した回答 | 第9回要領のページ |
|---|---|---|
| 検討前に製品カタログを確認 | 1・3 | 3 |
| 実施場所の特定、建設中の除外、所有・使用権 | 1・2・3 | 9 |
| みなし大企業の除外 | 1・2・3 | 17 |
| みなし同一法人は1社だけ申請 | 1・2・3 | 17〜18 |
| 本事業の申請中・支払未完了による対象外 | 1・2・3 | 17 |
| 過去3年の交付決定回数は指定の3制度を合算 | 1・2・3 | 18 |
| 過去の労働関係送検・関連法令違反による除外 | 1・2・3 | 18〜19 |
| IDの貸借不可、事務局の窓口を外部に任せない等の主体性 | 1・2・3 | 18 |
| 電子申請の入力・確認も申請者自身 | 1・2・3 | 2 |
| 口頭審査の本人対応・同席者制限 | 1・2・3 | 33〜34 |
| 給与の算定対象・全月支給、算定対象0名の除外 | 1・2・3 | 10・18 |
| 役員への賃上げ目標表明と、指定の表明書提出 | 1・2・3 | 10・37 |
| 足下の賃上げの審査と、交付決定までの文書表明 | 1・2・3 | 29 |
| 基準年度より付加価値額が増える計画 | 1・3 | 11 |
| 基本要件未達時の返還免除条件 | 1・2・3 | 12 |
| 過去の加点未達の減点は報告後18か月、正当な理由の例外 | 1・2・3 | 33 |
| 経費重複禁止と、同一事業の複数採択時の選択義務 | 1・2・3 | 13〜14 |
| 利用実績は現在申請中の補助金・委託費等も入力 | 1・2・3 | 13〜14 |
| 省力化ナビと応募で同じGビズIDプライムを使用 | 3 | 32 |
| マッチングサービスは会員登録に加え挑戦課題も登録 | 1・2・3 | 31 |
| センター加点は所定の計画書を完成し応募時に提出 | 1・2・3 | 32 |
| 決算書類に個別注記表を含む | 1・2・3 | 26 |
| 発注先合計50万円で相見積り、困難時は理由書 | 1・2・3 | 24 |
| 最低価格以外の選定は理由書と価格妥当性の資料 | 1・2・3 | 24 |
| 支払方法は銀行振込で確認、代行振込等は不可 | 1・2・3 | 24・35 |
| 基礎工事・中古品・関係者への支払等の対象外経費 | 1・2・3 | 20・22〜23 |
| 採択後の研修動画・確認テストと修了証 | 1・2・3 | 34・37 |
| 交付申請は原則、採択発表から2か月以内 | 1・3 | 25〜26 |
| 採択発表16か月後も事業期限の上限、期限内に実績報告 | 1・2・3 | 25 |
| 機械の保険・共済は自然災害を含み付保割合50%以上が原則 | 1・2・3 | 36 |
| システム構築は計画期間の保守契約が必要、保守費は対象外 | 1・2・3 | 36 |
| 効果報告は所定の起点から5年間、証拠書類も保管 | 1・2・3 | 35〜36 |
| 外部支援者の名称・報酬に加え契約期間等も記載 | 1・2・3 | 3・25 |
| 取得財産の処分・担保等の事前承認と納付の制約 | 1・2・3 | 34・38 |
| 季節的業務の4か月以内雇用も常勤人数から除外 | 1・3 | 14 |
たとえば「GビズIDを取る」という準備だけでは、申請者自身が内容を理解して入力することや、外部の支援者に事務局の窓口を任せられないことまでは分かりません。答え1には計画の自己作成と支援者名・報酬の記載がありましたが、これだけで申請体制の条件を満たすとは扱いませんでした。
過去の補助金についても、入金と回数だけでなく、経費重複、現在申請中の制度、同一事業が複数採択された場合の選択を確認します。FAQ6ページ No.75にも、その扱いがまとまっています。
5. ぶれ:6つの軸で、結論の強さや説明範囲が違った
| 比較した軸 | 3回答の違い | 公式資料に沿った読み方 |
|---|---|---|
| 申請可否の結論 | 1は条件付き、2は可能性が高い、3はほぼ確実 | 未提示の対象外条件が残る。強い断定を採用しない(要領17〜19ページ) |
| 設備の当てはめ | 1・2は専用設計ならという条件付き、3は設計済みとして説明 | 1・2の設計条件を保って確認(6・11ページ) |
| 季節雇用の人数除外 | 2は4か月以内を明記、1・3は具体的な説明なし | 2の具体条件が合う。雇用条件を確認(14ページ、FAQ2ページ No.17) |
| 足下の賃上げ | 2・3は審査を説明、1はなし | 2・3が審査の存在と合う。ただし文書表明は全て抜け(29ページ) |
| カタログの事前確認 | 2だけ説明 | 2の検討順が合う(3ページ) |
| 交付申請2か月の原則 | 2だけ説明 | 2の期限が合う。事業完了期限とは別(25〜26ページ) |
一方、答え1の税込試算約1,360万円と答え2・3の約1,364万円は、概算の丸めの差としてぶれから除きました。
答え2の1,171円と答え3の1,165円も、矛盾ではありません。前者は現在の地域別最低賃金+30円、後者は「2026年6月が1,110円なら55円引き上げる」という別の加点の計算です。数字だけを並べず、何の条件かを合わせる必要がありました。
6. AIの答えを申請準備に使うときの確かめ方
- 答えに付いた出典を開く。 ページの存在だけでなく、その主張を支える本文・表・注記まで読みます。上限額と補助率、対象経費と補助額を分けて確認します。
- 公募回と日付を合わせる。 FAQ内にも回ごとの違いがあります。第9回の条件を、同じPDFにある別の回の回答で上書きしません。
- 一般則と自社の資料を合わせる。 パートの契約期間、過去の入金、株主・役員の関係、月別の賃金・人数など、不足した情報を残します。「可能性がある」を「該当する」に置き換えません。
- 応募・交付申請・交付決定を分ける。 行動計画の公表、賃上げ表明、発注できる時点など、必要なタイミングが異なります。
- 不明点は事務局などへ確認する。 要領のページと自社の条件をそろえて問い合わせます。窓口への相談と、実際の申請内容の審査による判定は区別します。
11月4日時点の資料ダウンロードでは、第9回の応募申請の手引き、事業計画書作成の参考ガイド、計画書様式は準備中でした。書類名が要領に載っていることと、その回の様式を取得できることも別です。
公式スケジュールでは受付開始は12月上旬予定、締切は12月下旬予定、採択発表は2027年3月下旬で調整中でした。具体的な日付が決まったら、準備の期限を更新します。
7. 分かっていないことと、次の判断材料
今回扱ったのは、1社の条件と同じ質問への3回答だけです。製品や設定を変えた比較、別の会社・制度での再現、独立した人による採点、事務局への照会は行っていません。照合自体もAIが行っているため、これは制度の公式判定や一般的な正答率ではありません。
同じ質問でも、主要数値の一致、対象外条件への言及、結論の強さは別々に確認する必要がありました。今回の結果だけで「AIは補助金の判断に使える・使えない」とは一般化しません。
出典付きの自己チェックをする道具を考えるなら、要件ごとの根拠ページ、不足している会社資料、期限と例外を一緒に見せることが判断材料になります。今回、道具の実装や有効性の検証までは行っていません。
制度の違いはカタログ注文型と一般型の比較、導入費用の検討はAI導入に使える補助金・助成金と助成金・補助金の案内から確認できます。関連記事でも、扱っている回と情報確認日を確かめてください。