1. 受付から引き継ぎまで、五つに分ける
以下はhirostaの提案です。自社の相談体制に合わせ、受付担当と責任者を決めて使います。安全の確保が必要な状況では、記録が完成するのを待たず、社内の緊急対応の手順に沿って責任者へ連絡します。
- 本人の言葉を残す:相談の受付日時と、本人が話した言葉を記録します。受付担当の解釈を加えた要約とは分けます。
- 事実と未確認を分ける:発生日時・場所、記録、目撃者、映像の有無を確かめ、何を根拠にどこまで確認したかを書きます。
- 当面の対応と配慮を残す:担当の交代・配置・相手への対応窓口と、相談者が希望する配慮、実施した対応を記録します。
- 閲覧できる人を絞る:相談者に共有の目的と範囲を説明し、対応に必要な担当者だけが読める場所に保存します。
- 引き継ぎ先と期限を決める:誰が何をいつまでに確認し、相談者へいつ連絡するかを決め、相手が引き受けたことまで確かめます。
2. 制度の要点と、この記事で扱う範囲
厚生労働省の法改正・指針の案内によると、改正法は2025年6月11日に公布され、カスタマーハラスメント防止措置の義務化は2026年10月1日施行です。あかるい職場応援団の特設ページでも施行後の案内を確認しました(2026年10月21日確認)。
「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」は、2026年2月26日告示の厚生労働省告示第51号です。4では、方針の明確化と周知、相談体制、迅速な事実確認・被害者への配慮・再発防止、抑止のための体制、プライバシーの保護と相談等を理由とする不利益な取扱いをしない旨の周知を定めています(2026年10月21日確認)。
特に4(2)は、該当するか微妙な場合も広く相談に対応すること、4(3)は事実関係の確認と、必要に応じた対応経緯の記録・関係部門への共有に触れています。以下の記録表は、この相談受付と引き継ぎを具体化する提案であり、指針が指定した様式ではありません。表を作るだけで必要な措置をすべて満たすものではありません。
指針2(1)は、正当な申入れがカスハラに当たらないことを示しています。相談を受け止めることと、相手の言動をカスハラと確定することを分けてください。
なお、資料ダウンロードでは企業マニュアルの掲載を確認しましたが、「2026年9月公表の暫定版」という版・公表時期と内容は未確認です。この記事の制度説明の根拠には使っていません。
3. 本人の訴え・事実・未確認を別々に記録する
本人の訴えの欄には、話した言葉をかぎ括弧で残します。逐語で記録できなかった部分は「受付担当による要約」と明記し、本人に内容を確かめます。本人の気持ちや受け止めを、受付担当の判断で削ったり言い換えたりしません。
一方、確認した事実の欄には、確認者・確認日時・根拠の保管先と、確認できた範囲を書きます。「本人が30分と言った」ことと、「記録で30分の対応を確認できた」ことは異なります。目撃者の説明も、誰がどこまで見聞きしたかを区別します。
映像があるだけでは、発言内容まで確認できるとは限りません。音声の有無、確認した時間帯、記録が残っていない範囲を分けます。記録が見つからないことを、相談内容がなかった根拠にはしません。根拠を確認する際も顧客等の個人情報を適切に扱い、記録を広く複製しない運用にします。
想定シナリオ:架空の店舗会社の相談記録
以下は架空の会社・人物による想定シナリオです。実施事例やAIの出力ではありません。記録表は次の10項目を列にし、相談ごとに1行を使う案です。読みやすいよう、ここでは1件分を縦に示します。
| 記録表の列 | 記入例(すべて架空) |
|---|---|
| 受付日時 | 2026年10月20日14時、受付担当Bが面談で受付 |
| 相談者〔記号〕 | 従業員A。氏名との対応表は別途、閲覧制限付きで管理 |
| 本人の訴え〔原文〕 | 「昨日、レジで30分くらい大声で責められました。次に一人で対応するのが怖いです」 |
| 確認した事実と根拠 | Bが20日14時20分に19日の対応受付記録を確認。レジでの対応開始は15時10分。終了時刻は記載なし。映像の保存有無・目撃者の有無は未確認 |
| 未確認の点 | 対応の終了時刻、発言内容・声の大きさ、目撃者、映像・音声の有無。店長が20日16時までに確認できる範囲を整理 |
| 当面の対応 | 20日14時30分、店長が当日の窓口を担当すると決定。次回来店時もAが一人で対応しない体制を取る方針。次シフトの配置は調整中 |
| 相談者への配慮 | Aは単独対応を避けたいと希望。Bが希望を確認し、店長へ伝える範囲を説明。次シフトの配置と本人の意向は16時30分に再確認予定 |
| 閲覧できる人 | 受付担当B・店長・総務責任者。権限を絞った社内保管先を使用 |
| 引き継ぎ先 | 店長から総務責任者へ。総務責任者の受領確認は未了 |
| 期限 | 店長は20日16時までに確認結果と残る不明点を総務責任者へ報告。Bは16時30分にAへ対応状況を連絡 |
この時点で「顧客が30分間大声で責めたことが確認された」とまとめると、訴えを確定事実に変えてしまいます。引き継ぎでは「Aは約30分と説明。受付記録では開始時刻のみ確認。終了時刻・発言内容は未確認」と分けます。
4. 対応経緯と配慮を追記し、閲覧範囲を守る
「対応済み」だけでは、何をしたか伝わりません。当面の対応の欄に、日時・担当者・決めたこと・実施状況・次の確認を時系列で追記します。「交代を決定」「交代を実施」「次シフトは調整中」を分け、以前の記録を消して最新の結論だけにしないことがポイントです。
相談者への配慮も、本人の希望と、会社が実施したことを分けます。希望を聞いただけで実施済みにせず、誰がいつまでに調整するかを残します。事実確認の途中でも、必要な安全確保や相談者への配慮を後回しにしません。
相談者には、誰へ何のために共有するかを説明します。「絶対に誰にも伝えない」と約束したまま責任者に回すことは避け、共有の希望や懸念も記録して責任者と扱いを確認します。相談や事実確認への協力を理由に不利益な取扱いをしない方針も伝えます。
記号に置き換えても、日時や店舗・シフトから本人が分かることがあります。全員が閲覧するチャットや共有フォルダーへ相談記録を置かず、相談者・顧客・目撃者の情報と証拠の閲覧権限を絞ります。再発防止の周知資料は、個別の相談記録とは分けて必要な範囲に整理します。
5. 引き継ぎは「誰が・何を・いつまでに」で終える
引き継ぎ先には、訴えの原文、確認した事実と根拠、未確認の点、対応経緯、配慮、閲覧範囲を渡します。未確認事項には確認担当と期限を付け、判断が必要な点は責任者へ明示します。担当者が不在のときの代わりの連絡先も社内で決めておきます。
先ほどの想定シナリオなら、引き継ぎの末尾は「総務責任者へ20日16時までに報告。終了時刻等は店長が確認中。Aへの次の連絡はBが16時30分に実施予定」とします。送っただけで完了にせず、総務責任者が受領し、次の対応を引き受けた時刻も追記します。期限までに確認できなければ、不明点を残したまま状況と次の期限を報告します。
個別の該当判定、相手への対応方針や法的な判断は、社内の方針と責任者、必要なら専門家・公的な相談窓口で判断します。AIの要約を判断の根拠にせず、元の記録へ戻れる状態を保ちます。
6. AIは架空の記録の点検候補と、引き継ぎ下書きまで
実際の相談内容・個人名を外部のAIサービスへ入力しないでください。 氏名を記号に変えただけの実記録も入力しません。添付、映像、チャット履歴を渡すことも避けます。AIへ入力できる情報と用途は、社内で事前に決めます。決まっていない場合は入力を止め、責任者に確認します。社員のAI利用を把握する手順も参考になります。
この記事で提案するAIの用途は、社内で入力を認めた完全に架空の相談記録について、次の候補を挙げることと、引き継ぎの下書きを作ることだけです。
- 本人の訴えと確認した事実が混ざっている箇所
- 根拠のない断定、未確認の点
- 上記を分け、確認担当と期限を残した引き継ぎの下書き
AIにカスハラの該当判定、相手方の評価、処分の判断をさせません。顧客への自動返信もしません。 記録の点検にAIを使うことと、相談対応の判断を任せることは別です。
AIへの依頼文は、例えば「この架空の記録だけを使い、訴えと事実の混同、根拠のない断定、未確認事項の候補を、元の記述とともに挙げてください。事実を補わず、不明は不明のまま残してください。該当判定・人物評価・処分の判断はせず、引き継ぎ文は未確認の下書きと明記してください」とします。これは依頼文の例であり、実行結果ではありません。
下書きを使う前に、人が原文と根拠を照合します。訴えの言葉や受け止めが消えていないか、未確認事項を事実にしていないか、未実施の対応を完了扱いしていないか、担当・期限を作り足していないかを確かめます。修正した箇所と確認者・確認日時を残し、AIの文章で元の相談記録を上書きしません。
まずはAIを使わず、記録表と引き継ぎ先を整えるところから始められます。顧客への返信を検討する工程は、この記事の対象外です。問い合わせ対応のAI活用で、分類・下書き・送信前の確認を分けて説明しています。