まず、社内の改善か、新しい事業への投資かを分ける
社内の見積り作成や問い合わせ対応にAIを導入しても、それだけで新事業進出にはなりません。新たに販売・提供するものと、従来は対象にしていなかった顧客層を説明できるかが出発点です。
AI検査・生産設備と新製品開発の違いでは、革新的新製品・サービス枠を説明しています。同じ制度の枠でも、そこで扱う開発の革新性と、この記事で扱う自社にとっての製品・市場の新規性は、確認する内容が異なります。
社内ツールの導入が中心ならAI導入に使える補助金・助成金、既存工程の人手不足対策なら省力化投資補助金の比較へ進んでください。いずれも、AIを使えば自動的に対象になる制度ではありません。
既存事業と、新しく提供するもの・顧客層を並べる
新事業進出枠では、製品・商品・サービスが自社にとって新しく、その市場も自社にとって新しいことの両方を確認します。「日本初・世界初」であることを指す要件ではありません。
検討の初めに、次の項目を既存事業と新事業に分けて書き出してみましょう。これは違いを整理するための確認表で、申請書の様式や適合判定表ではありません。
| 比べる項目 | 既存事業で整理すること | 新事業で整理すること |
|---|---|---|
| 製品・サービス | 現在と過去に販売・提供した内容 | 初めて提供する内容と、その違い |
| 顧客のニーズ | 何に困り、何を求めて購入するか | 従来は応えていなかった、どの要求に応えるか |
| 顧客の属性 | 法人・個人、業種、利用行動など | 従来と異なる顧客層をどう説明するか |
| 市場の重なり | 既存製品の用途と購入される理由 | 既存製品の置き換えや、既存市場の一部にとどまらないか |
新しい取引先が増えることと、新しい顧客層に進出することは同じではありません。公募要領では、既存市場の一部だけを狙う場合や、既存の製品等で単に商圏を変える場合は該当しない例として挙げられています。
また、過去に提供したものの再開、提供量を増やすだけの計画、製造方法だけの変更なども該当しない例です。「AI対応版」という名前だけで区別せず、提供内容や需要の違いを説明できる資料を確認しましょう。
新規性には取り組み始めた時期も関係します。第1回公募要領では、申請予定の公募回の公募開始日(公募要領の公開日)以降に初めて取り組む事業を新規性のあるものとしています。申請受付の開始日とは区別し、準備や着手の状況を事務局に確認してください。
架空例:社内のAI整理と、顧客向けの新サービス
以下は架空の「B社」による未実施の説明例です。補助対象と認められた事例や、hirostaの実績ではありません。
既存サービスの社内作業を減らす場合
B社が法人向けの紙資料の電子化を行っており、受託した資料の仕分けにAIを使うとします。顧客への提供内容と対象顧客層が変わらず、社内の処理負担を減らすだけなら、製品・市場の両方が新しいとは説明できません。
異なる顧客層へ新サービスを提供する構想の場合
同社が、これまで対象にしていなかった個人向けに、家庭の写真を整理して閲覧する新サービスを構想したとします。AIは写真の分類を補助し、公開範囲や分類の修正は利用者が確認する想定です。
この場合も「法人から個人へ変わるから対象」とは判断できません。既存サービスとの機能・用途の違い、個人が利用する理由、従来の需要を置き換えるだけではないかを確認します。顧客情報の扱い、運営体制、必要な投資も整理する必要があり、この例の新市場性・対象可否・採択は未確認です。AIの精度や利用者の評価も測定していません。
顧客管理や販促システムを買うことが目的なら、持続化補助金と顧客管理・販促システムを参照してください。システムの購入と、事業として何を誰に提供するかは分けて考えます。
「自社にとって新しい市場」と、審査上の「新市場性」は別に確認する
製品・市場が自社にとって新しいことを説明したうえで、審査では新事業の新市場性・高付加価値性も問われます。この審査項目は、新市場性と高付加価値性の選択制です。公式補足資料は、前者では社会での普及・認知の程度、後者では同じ分野の一般的な価値・価格との比較を示しています。
つまり、初めて扱う顧客層というだけで、審査上も新市場性が高いとは言えません。事業の分野を狭く切りすぎず、公的統計や市場調査などの根拠を確認する必要があります。AIを使うことや、価格を高くすることだけでも説明になりません。
補足資料の図や例は、審査の考え方を示したものです。例と同じ計画でも採択は保証されず、他の要件と事業全体を含む審査があります。
製品と顧客層だけでなく、必要な投資と事業全体を確認する
新事業進出枠では、機械装置・システム構築費か建物費のいずれかを補助対象経費に含める必要があります。AIの利用料だけを支払う計画でよいとは限りません。設備やシステムが新事業に必要な理由、使う範囲、費用の内訳を整理してください。
経費の名前が要領にあることと、個別の見積りが対象になることも別です。既存事業との共用部分などを区別し、事務局に確認します。
あわせて、収益の見通し、運営体制、資金調達、付加価値や賃上げなどの基本要件を満たせるかも確認します。賃上げ等の目標を達成しないと返還が必要になる場合があります。共通する基本要件の概要と日程の案内は前の記事を参照し、新事業進出枠への適用条件は最新の公募要領で確かめてください。
この記事の対象は、現行の「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」です。別制度の「中小企業新事業進出補助金」の受付状況や要件を流用しないでください。契約・発注を進める前に、公式資料一覧で対象の公募回と最新要領を確認しましょう。