「AIを導入する」より先に、開発するものを決める

革新的新製品・サービス枠は、自社の技術力などを活かし、顧客に新しい価値を提供する製品・サービスの開発を支援する枠です。設備が新しいことや、AIを使うことだけでは開発要件を満たしません。

次の順に説明できるかを確かめましょう。

  1. 開発するもの:新たに販売・提供する製品やサービスは何か。
  2. 顧客への価値:従来の製品・サービスでは満たせなかった、どの要求に応えるのか。
  3. 開発する内容:どの技術的な課題に取り組み、仕様・性能をどう確かめるのか。
  4. 設備との関係:AI検査や生産設備が、その開発に必要な理由は何か。

自社にとって初めてであっても、同業の中小企業等にすでに相当程度普及している製品・サービスの開発は、この枠に該当しません。地域性の高いものは同一地域の同業他社も確認対象です。「自社初のAI設備」という説明だけで判断しないことが大切です。

同じAI検査でも、新製品開発と工程改善では目的が違う

以下は架空の会社「A製作所」を使った、未実施の想定例です。補助対象と認められた実例や、hirostaの導入実績ではありません。

既存製品の検査を省力化したい場合

A製作所が、現在販売している部品の目視検査をAI画像検査に置き換え、担当者の作業を減らそうとしているとします。製品の仕様や顧客へ提供する内容は変えず、目的は検査工程の改善です。

このように既存製品の生産プロセスを改善するだけの事業は、革新的新製品・サービス枠の対象外です。「AIで精度を上げたい」と付け加えるだけで、新製品開発になるわけではありません。

人手不足への対応として設備・システムを検討するなら、省力化投資補助金のカタログ注文型と一般型の比較へ進んでください。そちらも対象要件の確認が必要で、自動的に使えるという意味ではありません。

新しい仕様の製品を開発したい場合

一方で、A製作所が、従来品では満たせなかった顧客の要求に応える新しい部品を開発するとします。そのために加工条件の開発と試作を行い、AI検査設備で試作品の欠陥を評価する計画なら、まず新製品の仕様・新しい価値・開発課題を整理します。

ここでは、検査時間の短縮だけでなく「何を開発し、顧客に何を提供するか」を説明する必要があります。ただし、新仕様の部品と呼べば対象になるわけではありません。同業他社での普及状況、開発内容、費用などを含めて確認が必要で、この想定例の対象可否も未確認です。

AIの検出結果をそのまま製品の合否や出荷判断にはせず、品質担当者が評価基準や見逃し・誤検出の扱いを決めるなど、人が確認する範囲も開発計画と分けずに整理しましょう。想定した精度や省力化の効果は、実測前に実績として扱いません。

設備・システム費は、開発との関係が分かる内訳にする

公募要領1-6では、革新的新製品・サービス枠に機械装置・システム構築費を含めることが必須とされています。ただし、費目に名前があるだけで、見積りの全額が対象になるわけではありません。

「AI検査システム一式」という見積りだけで進めず、少なくとも次を分けて確認します。

  • カメラ・照明・検査装置などの機器と、開発に必要な用途
  • 専用ソフトウェアやシステムの構築範囲と費用
  • クラウド利用料・外注費などの内容、契約期間、該当する経費区分
  • 既存業務との共用や、既存設備の単なる置き換えに当たる部分

必要性と金額の妥当性を証拠書類で確認できることが前提です。既存事業と共用する経費や単なる置き換えは対象外とされているため、使用目的をあいまいにしないでください。採択後の審査等で、経費が対象外になる場合もあります。

登録ITツールを導入する制度との違いは、AI導入に使える補助金・助成金で説明しています。登録ツールであることと、この枠で開発する事業・設備が適合することは、別に確認します。

開発要件だけでなく、賃上げなどの義務も確認する

新製品開発に当たるとしても、それだけで利用できる制度ではありません。第1回公募要領1.3版の1-3では、補助事業終了後3〜5年の事業計画について、主に次の基本要件が示されています。

  • 付加価値額を年平均4.0%以上増やす計画と、その達成
  • 従業員の一人当たり給与支給総額を年平均3.5%以上増やす計画と、その達成
  • 毎年、事業場内最低賃金を地域別最低賃金より30円以上高い水準にすること
  • 一般事業主行動計画の策定・公表と、子育て等に関する職場環境整備の取組

賃上げや最低賃金の目標未達では、補助金の返還が必要になる場合があります。算定対象、例外、報告の方法まで要領で確認してください。借入れを利用する場合の金融機関の確認など、自社の条件に応じた要件もあります。

設備の価格だけで決めず、開発費の支払い、継続する人件費、開発後の販売・提供の見通しを含めて、実行できる計画かを検討しましょう。

旧ものづくり補助金の公募回と混同しない

本記事の対象は「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」の第1回です。公式サイトは、従来の「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」とは異なる補助金と案内しています。旧制度の記事にある公募回・経費・賃上げ要件を、そのまま当てはめないでください。

同じ現行制度には「新事業進出枠」もありますが、新たな市場への進出などを確認する別の枠です。本記事の開発と工程改善の比較だけで、そちらへの適合は判断できません。

第1回の締切は2026年10月30日18時です。申請を検討する時点で、公式サイトの公募案内と最新要領を確かめてください。次回公募や要領改訂では、この記事の条件がそのまま使えるとは限りません。