1. PalantirのFDEは、顧客の課題と製品をつなぐ

Palantirは会社紹介で、2003年当時、既存の製品は新しい問題に対応しにくく、個別開発のシステムは導入や維持・改善に手間がかかると考えたことを、創業の背景に挙げています。製品をそのまま渡すだけでも、案件ごとにすべて作り直すだけでも、現場の問題には届きにくいという問題意識です。

その間をつなぐ役割が、同社のForward Deployed Software Engineer(FDSE、FDEの呼び方の一つ)です。2019年の公式記事では、製品の共通機能を作るエンジニアと、顧客向けに導入・カスタマイズを担うエンジニアを区別しています。後者は顧客の目標を起点に、既存の製品や開発ツールを組み合わせます。現場で必要になった機能を、製品チームと調整して共通の製品へ戻す仕事も紹介されています。

現行の公式ドキュメントにも、工場などの顧客の環境へ入り、機能を開発して届けるForward Deployed Engineeringの説明があります。生成AIを試す以前から、使う人の仕事とソフトウェアの開発を近づけてきた点が、この役割を理解する手掛かりです。FDEという職種の誕生年や、各社で同じ役割になった時期までは、今回の資料から断定しません。

FDEの基本と、顧問・受託開発と比べて依頼範囲を決める方法は「FDEとは」にまとめています。ここからは、短期間で使い道を作るブートキャンプに絞ります。

2. AIPブートキャンプの「5日間」は、何を指すのか

2026年11月2日に確認したAIPブートキャンプの公式案内は、5日間で使い道を作ることを掲げ、次の内容を示しています。

  • 重要な業務にAIをどう適用するかを理解する。
  • ソフトウェア上で最初の使い道を開発する。
  • 業務への展開に向け、利用者の導入・教育を行う。

また、導入ドキュメントでは、Palantirのエンジニアと一緒に、数時間から数日で使い道を作る機会として案内されています。読者が注目したいのは、講義の受講だけで終わらず、業務と結び付いたものを作り、利用者に渡すところまでを短くつなげている点です。

ただし、この期間を、データの準備から全社展開・保守までを終える日数に置き換えることはできません。今回確認した案内だけでは、個別企業の料金、参加前の準備期間、日本での開催条件、すべての業務で必要になる追加開発の範囲は分かりません。参加を検討する場合は提供元に確認する事項です。

hirostaが同じプログラムを提供しているという意味でもありません。自社で取り入れるなら、まず「短期間で何を判断できるようにするか」を決めます。

3. 試作前に、終了時の判断を一枚にまとめる

以下は、公式プログラムの日別カリキュラムではなく、短期の試作を業務改善に使うための提案です。経営者、現場担当者、実装担当で、着手前に次の項目を埋めます。

項目 決めておくこと
対象の仕事 誰が、どの資料を見て、何を判断・記入しているか
作るもの 一覧、下書き、確認画面など、担当者が触って判断できる形
使える資料 利用許可、必要な範囲、保管先、試作終了後の削除担当
確かめる場面 通常の処理に加え、資料不足・訂正・重複がある場合
人の確認 元の資料と比べる項目、誤りを直す人、採用を決める人
終了時の判断 続ける、対象を絞り直す、資料を整える、今回は見送る条件

「AIが答えを出した」だけでは、日常の仕事に使えるかは分かりません。元の資料を開けるか、判断に必要な項目がそろうか、担当者が無理なく直せるかまで、同じ作業の中で見ます。情報を外部のAIに渡せるかは、入力前の確認手順を参考に別途判断します。

担当者が参加できない、元資料を使う許可がない、業務上の正しい扱いを誰も決められない場合は、先にその準備をします。画面だけを急いで作るより、試すための条件をそろえる段階です。

4. 活用例:受注書類の確認を、担当者と一緒に試す

以下は架空の卸売会社を題材にした、未実施の想定シナリオです。Palantirやhirostaの導入実績、製品の操作結果ではありません。

営業事務が注文書と取引先の登録情報を見比べ、品番・数量・納品先を受注システムへ入力しているとします。「受注を全部自動化する」では範囲が広いため、最初は入力前の確認一覧を作ることに絞ります。本番システムへの登録と、取引先への返信は含めません。

作業を見て、使う資料と確認画面を決める

現場担当者に普段の確認順を説明してもらい、実装担当が「どこを見れば正しいと判断できるか」を聞きます。試作用の資料は、利用許可があり、機密情報や個人情報を除いたものを用意する想定です。訂正の注文書や、同じ書類が再送された場合も対象に入れます。

画面には「元書類への参照・受注番号・品番・数量・納品先・確認が必要な理由・担当者の判断」を並べます。AIは書類から読み取った内容の候補を作り、決まった形式の項目比較には通常の自動化を使います。取引先の同一性、欠けた数量、訂正前後のどちらを採用するかを、AIの推測で埋めません。

通常・訂正・重複を、元の書類と見比べる

試す場面 画面で見たい扱い 担当者が判断すること
必要項目がそろった注文書 読み取り候補と元書類を並べる 品番・数量・納品先が一致するか
訂正の注文書が届いた 旧版と訂正版を確認待ちにする どの版を採用するか
同じ注文書が再送された 新しい受注として確定せず、元の記録を示す 同一注文か、追加注文か
数量が書かれていない 空欄と不足理由を表示する 社内で分かるか、取引先への確認が必要か

訂正・重複・不足が一つでも自動で確定されるなら、そのまま本番登録へ進めず、保留する条件を直します。一方、項目の読み取りができても確認に手間がかかるなら、AIの変更より先に元書類の表示や一覧の並びを直す案もあります。

試作の終わりに、次の判断を残す

結果は「触って確認できたこと」「人の修正が必要だったこと」「まだ試していないこと」に分けます。続ける場合も、自動登録を一度に足さず、まず担当者が確認した内容だけを使う範囲を検討します。元の手作業の時間、試作での確認・修正時間、扱った書類の条件がそろっていなければ、削減率は計算しません。

書類処理の工程全体は書類処理・転記の業務ページへ、聞き取りの進め方は業務ヒアリングとマニュアル作成の事例へ進めます。後者は聞き取りの参考であり、この受注確認を実装した事例ではありません。

5. 本番へ進む費用と期間は、試作の後に分けて決める

試作の見積りでは、業務の確認、使う資料の準備、画面の作成、担当者による確認、結果の整理がどこまで含まれるかを聞きます。本番へ進む費用には、実データの連携、権限設定、重複処理の防止、履歴の保存、停止時の戻し方、利用者への説明、保守が別に必要になることがあります。

日程も、資料と権限の準備、試作、現場での確認、本番利用の準備を分けます。終了時に未確認が多ければ、対象を小さくするか、資料を整えて再検討します。動く画面ができたことと、本番の仕事を任せられることを、別の判断として扱ってください。

hirostaのプロのプランは、広島県内に定期的に訪問し、現場で作業するFDE型の支援です。訪問の回数は契約で決めます。Palantirのブートキャンプと同じ期間・機能を約束するものではなく、支援範囲はサービス・料金で案内しています。業務が決まっていない段階でも、相談窓口へ困りごとをお話しいただけます。