1. 試したこと:残った権限を見つけ、作業を閉じるまで回す

アカウントの棚卸しで「退職者のメールが残っている」と分かっても、担当者へ伝えるだけでは作業の終わりが見えません。異動の場合は、引き続き使うメールまで止めず、不要になった権限だけを外す必要があります。

今回は、社員IDで名簿とサービス別の利用一覧を結び、作業台帳を作りました。対象を見つけた後、担当・期限・引継ぎの確認点を付け、模擬報告を戻して、未完了の作業を残すところまで動かしています。

AIの操作権限を扱った回は、AIが提案した操作を実行へ渡してよいかを扱います。今回は、人の退職・異動をきっかけに、各サービスの作業と完了記録を管理する流れです。設定台帳の回の分類だけで終えず、保留した作業に記録を補い、台帳上で閉じるところまで進めました。

参考にしたIPAの考え方

IPAの中小企業向けガイドライン第4.0版は、冊子29頁で退職・契約満了時のID等の回収と実行状況の可視化、冊子50頁で利用者の認可・制限を扱っています。2026年10月30日に該当箇所を確認しました。

これを参考に、サービスごとの作業と確認記録を残す形にしました。以下の担当分担・期限・完了条件は、この試作用に決めたもので、IPAが指定する様式や適合判定ではありません。

2. 作り方の要点:社員単位の依頼をサービス単位の作業に分ける

用意した名簿と利用一覧

架空の「サンプル権限商事」の名簿は、社員ID E01〜E15の15名分です。通常の在籍者12名、経理から営業への異動者1名、退職者2名を置きました。利用一覧は、各人のメール・ストレージ計30件と、E01・E02・E13・E15の会計ソフト4件の計34件です。製品名は使わず、サービスの種類だけを置いています。

業務が終わった後に棚卸しした場面として、架空の時刻「2026年10月30日18:30」を設定しました。実際にその時刻まで待ったり、停止を予約したりしたものではありません。

社員ID 名簿の状態・変更時刻(JST) 利用一覧の状態 今回の作業
E01〜E12 在籍 メール・ストレージは利用中。E01・E02は会計も利用中 変更なし
E13 経理から営業へ異動・10月30日9:00 メールは利用中、ストレージは経理共有、会計も利用中 経理共有を外して営業共有へ変更、会計を停止
E14 退職・10月30日18:00 メールは利用中、ストレージは停止済みの控えあり メールを停止
E15 退職・10月30日18:00 メールは停止済みの控えあり、ストレージ・会計は利用中 ストレージ・会計を停止

結果は、退職に伴う利用停止3件、異動に伴う権限変更1件・利用停止1件の計5件でした。停止済みの2件は新しい作業に加えず、元の控えを参照する形です。名簿と結び付かないID、共有ID、管理者・外部委託者のIDは今回の素材に含めていません。

AI・コード・人の分担

コードは社員IDと状態を使って対象を抽出します。異動後に必要な権限はコードやAIに推測させず、「E13のメールは継続、経理共有を外して営業共有へ、会計は停止」という条件を先に固定しました。

汎用の生成AIに指示して処理したのは、5件の作業に付ける担当・期限・確認点の整理です。作業AI自身が架空の報告も作り、Pythonで台帳の状態を出力しました。人の承認や管理画面での確認を代行したものではありません。

実運用なら、人が異動後の業務と必要な権限を承認し、担当者が実際に変更します。その後、別の確認者が対象と変更後の状態を確かめます。

3. 回した手順:受付・引継ぎ・作業・完了確認を残す

試作で整理した手順は、次のとおりです。今回はすべて架空の記録上で回しています。

  1. 退職・異動を受け付ける。 社員ID、発効時刻、変更の種類、依頼元を記録します。異動では残す権限と外す権限を決めます。
  2. サービス別の作業を作る。 メール、ストレージ、会計などに分け、担当・期限・変更後の状態を記入します。依頼を送っただけでは完了にしません。
  3. 引継ぎと利用停止を分ける。 業務資料の引継ぎ先、保存すべき記録を決めます。アカウントの利用停止と、データ・契約の削除を同じ操作として扱いません。
  4. 作業後の記録を戻す。 対象ID、変更後の状態、作業の控え、確認者を台帳へ戻します。不明なものは確認待ちに残します。
  5. 残った作業を責任者へ渡す。 期限までに確認できなければ、担当と次の確認を決めます。未完了のまま社員単位で一括完了にしません。

試作した作業台帳の抜粋

以下は修正版で、控えが足りない作業を確認待ちにした段階です。期限は試作用の設定で、すでに過ぎた作業として扱っています。実サービスの完了記録ではありません。

作業ID すること・担当 期限(10月30日・JST) 模擬報告を戻した後
E13-drive 経理共有を外して営業共有へ・ストレージ担当 9:00 模擬完了。変更後「営業共有」、控えD13・確認担当Bあり
E13-accounting 会計の利用停止・会計担当 9:00 模擬完了。停止状態、控えA13・確認担当Bあり
E14-mail メールの利用停止・メール担当 18:00 模擬完了。停止状態、控えM14・確認担当Bあり
E15-drive 業務資料の引継ぎ後、利用停止・ストレージ担当 18:00 模擬完了。引継ぎ済みの申告、停止状態、控えD15・確認担当Bあり
E15-accounting 会計の利用停止・会計担当 18:00 確認待ち。「作業済み」の申告だけで、停止後の状態・控え・確認者なし

確認待ちのE15-accountingは、会計担当から停止後の状態記録を受け、確認担当が対象を確かめる扱いにしました。今回はAIが架空控えA15・架空確認担当B・停止状態を補い、再実行すると5件すべてが模擬完了になりました。実際に誰かへ連絡したわけではありません。

4. 結果と、うまくいかなかったこと

最初の形は、意図的に「作業済みの申告があれば完了」とする単純な台帳にしました。そのため、停止後の状態が不明なE15-accountingまで閉じました。自然に発生した事故や、AIの精度改善を測ったものではなく、完了条件の違いを比べた試作です。

実行した形 模擬完了 確認待ち 分かったこと
初版:作業済みの申告だけを見る 5件 0件 停止の記録がない1件も閉じる
修正版:控え・確認者・変更後の状態・引継ぎ済みの申告も見る 4件 1件 E15-accountingを確認待ちに残す
修正版に不足した架空の記録を補う 5件 0件 残った1件を台帳上で閉じる

修正版の完了条件の抜粋です。控えの中身を読み取ったり、実サービスに問い合わせたりする処理はありません。

complete = (
    report["reported_done"]
    and bool(report["receipt"])
    and bool(report["checker"])
    and report["post_state"] == plan["expected"]
    and report["handover_done"]
)

素材作成開始から最後の結果出力までの経過時間は、この試作では59秒でした。2026年10月30日10:04:24〜10:05:23(JST)、macOS・Python 3で、作業AIによる架空データ・コードの作成、初版1回・修正版2回の実行と記録補充を含みます。資料調査、記事制作、画面確認、人の作業、実際の停止操作の時間は含みません。業務の削減時間ではありません。

今回の変更で残せたのは、「どの作業に、何の記録が足りないか」です。同じAIが素材・手順・コード・結果の読み合わせを担当しており、人による評価は未実施です。確認者名や控えがあるだけで、記録が正しいとは限りません。

5. 実際の業務で使う前に確認すること

最初に、名簿と利用一覧の対象範囲をそろえます。個人契約のサービス、外部委託者、共有ID、連携用のIDなど、一覧から漏れたものはこの台帳では見つかりません。氏名だけで結ばず、IDの対応が不明なら担当者へ戻します。

次に、サービスごとに以下を確かめます。今回の試作では未実施の範囲です。

  • 利用停止の範囲: ログイン停止だけでなく、既存セッション、連携アプリ、委任・代理アクセスなどの扱いを管理者が確認する。
  • 異動後の権限: 直接付けた権限とグループ経由の権限を確認する。「営業共有」と台帳に書き換えるだけで済ませない。
  • 業務の継続と保存: 所有する資料、共有先、保存義務、引継ぎ先を決める。引継ぎの未完了を理由に、本人のアクセスを漫然と残さない。必要な対応順は責任者が判断する。
  • 期限と例外: いつ利用を止めるか、緊急停止や期限超過を誰へ上げるかを決める。今回のコードに時刻を監視する機能や通知・予約処理はない。
  • 記録の信頼性: 確認者が対象サービス・ID・変更時刻・設定を原記録と照らす。空欄を埋めるだけの運用にしない。

実データをAIへ渡す場合は、入力してよい情報と契約・設定を先に確認します。パスワード、秘密鍵、復旧コードなどを名簿や作業台帳へ入れないでください。

この試作は、アカウント停止の自動実行、記録の真偽判定、重複実行の防止、同時作業の制御を実装していません。実運用へ移す前に、担当者が管理画面と記録を使い、対象の取り違えや未記載の権限を確認する必要があります。

6. 相談するときは、止める対象と確認の流れから

「何のアカウントがあるか分からない」「停止を頼んだ後の記録がない」なら、名簿とサービス一覧、担当と完了条件をつなぐところから整理できます。サービス・料金をご覧のうえ、無料相談では今の手順と困っている工程をお聞かせください。