1. 調査の「速くなった」と、自社の完了時間を分ける
TANKAが2026年10月22日に公表した調査では、従業員100人未満の国内企業に勤務し、業務で生成AIを利用している会社員500人のうち、60.0%が「自分の仕事は速くなったが、チーム全体はあまり速くなっていない」という趣旨の問いに、とても・やや感じると回答しています。
これは生成AIの業務利用者の認識を尋ねた調査です。企業全体の導入率、業務時間の実測、AIの導入による因果関係を示す数値ではありません。hirostaの成果や、自社にも同じ割合で問題があるという根拠にはできません。出典はTANKAの調査発表です。
自社で確かめるには、下書きを作る時間と、仕事が最後まで進む時間を別に見る必要があります。以下の記録項目と判断手順は、そのためのhirostaの提案です。調査で有効性が検証された手順ではありません。
導入全般のつまずきはAI導入で失敗しやすいパターン、研修から実務へ移す準備はAI研修後の試行手順で扱っています。この記事では、担当者をまたぐ時間の記録に絞ります。
2. まず「いつ受け付け、何をもって完了か」を決める
最初は、定型の問い合わせへの返信など、同じ流れで繰り返す業務を一つ選びます。「下書きができたら完了」なのか、「確認して送信したら完了」なのかが違うと、時間を比べられません。
問い合わせなら、受付は窓口で受信した時点、完了は権限のある担当者が内容・宛先を確認して送信し、対応済みを記録した時点、と決める方法があります。社外からの返答を待つ仕事なら、送信後も追うのか、送信までで区切るのかを先に決めてください。
業務責任者が次の条件をそろえます。
- 対象と対象外:定型の問い合わせを対象にし、返金など個別判断が必要な案件は分ける。
- 記録期間と締め:開始日・終了日と、終了時点で未完了の案件をどう残すかを決める。
- 担当と記録先:下書き担当、確認担当、担当者不在時の相談先、共有する一覧の場所を決める。
- 完了条件:必要な確認と記録が済んだ状態を、具体的に書く。
記録のために個人情報や問い合わせ本文を別の場所へコピーする必要はありません。案件番号と、閲覧権限のある元記録への参照を使い、共有範囲を絞ります。外部AIへ実データを入力する場合の判断は、顧客情報をAIへ入力する前の確認を参照してください。
3. 案件ごとの時点と、実際に作業した時間を残す
既存の業務一覧や表に、案件番号・種類・担当・現在の状態と、次の記録を持たせます。新しいシステムを入れる前に、今の記録で追える範囲から始める方法があります。
| 記録する時点 | 一緒に残すこと |
|---|---|
| 受付 | 受信日時、期限、対象の業務区分 |
| 下書き開始・完了 | 使った資料の版、準備・操作・修正の実作業時間 |
| 確認依頼 | 依頼日時、確認する人、確認対象の下書きの版、必要な根拠 |
| 確認開始・終了 | 着手日時、確認の実作業時間、中断した区間 |
| 差し戻し・再依頼 | それぞれの日時、理由、修正の実作業時間、対象の版 |
| 完了 | 完了日時、条件を満たした記録への参照 |
日時には日付も残します。差し戻しや確認が複数回あれば履歴を足し、最初の依頼日時を最後の日時で上書きしません。途中で別の仕事へ移った場合は、中断・再開を残します。
経過時間・実作業・待ちを別の値として読む
- 経過時間:決めた受付から完了までの、時計上の時間です。
- 実作業時間:準備、AIへの依頼、内容確認、修正などに人が実際に手を動かした時間です。AIの処理中に別の仕事をした区間を、そのまま人の作業時間には入れません。
- 確認待ち:確認依頼から確認開始までなど、工程間で進んでいない区間です。着手後の中断は別に残し、すべてを確認作業と数えません。
確認中に別部署の回答を待つなら、その開始・終了と相手部署を記録します。理由が分からなければ「理由未確認」とし、確認担当者が忙しいからだと推測しません。記録できなかった作業は未測定と残し、受付と完了の差をすべて人の作業時間にしないようにします。
4. 営業時間外・未完了・並行作業を分けて比べる
営業時間外を含む経過と、対応できる時間内の待ちを併記する
夕方の確認依頼が翌営業日の朝に確認された場合、夜間も含む経過時間と、担当者が対応できる時間内の待ちは違います。自社の営業日・対応時間・休憩の区切りを決め、区切れなければ営業時間外を含む値だと明記します。比較の途中で都合よく夜間だけを除かないようにします。
未完了案件を除いて「速くなった」としない
記録期間の終了時点で、確認待ちの案件は「未完了」と残します。締めの日時、現在の工程、受付から締めまでの経過を記録し、完了時間とは別に扱います。完了した案件だけを集めると、長く止まっている仕事が見えなくなります。完了件数と未完了件数を併記してください。
並行する作業の合計を、完了までの経過にしない
営業と経理が同時に内容を確認する場合、人の負担を見るために担当別の実作業時間を合計することはできます。ただし、同じ時間帯が重なるため、その合計は受付から完了までの時間とは一致しません。全体の経過は受付・完了の日時で読み、工程の重なりと、どの確認が終わるのを待ったかを別に残します。
比較前後では、案件の種類・件数・難易度・資料の状態・確認人数・繁忙期かどうかもそろえます。定型の返信と、複数部署の判断が必要な案件を一つの平均にまとめません。条件が違うものは別に示し、比較できないものから削減率を出さないようにします。
5. 想定シナリオ:卸売会社で返信案の確認がたまる
以下は架空の卸売会社の想定シナリオです。導入・測定・改善を実施した記録ではありません。
営業担当者がAIで商品に関する返信案を用意し、営業責任者が確認して送る会社を考えます。下書きはすぐできるのに、その日のうちに返事が終わりません。ここでは、公開してよい商品案内で答えられる定型の問い合わせを記録対象とし、価格交渉や返金の判断は分けます。
一覧の画面は、案件番号/現在の工程/確認先/次に動く人/期限/履歴を並べるイメージです。営業担当者は下書きの開始・完了と確認依頼を残し、責任者は確認開始・中断・差し戻し・完了を残します。問い合わせ本文は元の管理場所を参照します。
記録を読んだときは、次のように見直す先を分けます。いずれも、起こり得る状況と対応案です。
| 記録で分かった状況 | 最初に見直すこと |
|---|---|
| 確認依頼から着手までが長く、担当不在で止まる | 確認する時間帯と、不在時に引き受ける人を決める |
| 着手後に商品資料を探して中断する | 依頼時に資料の版・該当箇所を添える |
| 同じ条件の抜けで差し戻しを繰り返す | 下書きに必要な項目と、確認基準を見直す |
| 下書きは完成しても確認依頼まで進まない | 下書きの保存場所と、引き渡す操作・担当を確認する |
| 確認済みの案件が送信前に止まる | 送信する人と完了記録の手順を確認する |
たとえば資料探しで中断する記録が多ければ、まず依頼に根拠を添える変更から試します。同時にAI製品や承認人数まで変えると、何が違いを生んだか分かりにくくなります。変更後も、宛先・商品条件・回答の根拠は人が確認し、確認待ちを減らす目的で承認を飛ばしません。
人が確認・修正して送信する役割分担の参考は、公開済みの問い合わせメールの仕分けと返信下書きの事例です。同事例が、この記録方法の効果を証明するものではありません。
6. 費用と期間は、記録する負担も含めて判断する
最初は、既存の一覧への項目追加で追えるかを確認します。追加費用がなくても、記録・集計・振り返りには担当者の時間がかかります。ツールの利用料だけでなく、記録の手間、確認担当の負担、運用を直す作業を含めて続けられるかを判断してください。
期間は、対象業務が発生し、確認・差し戻し・完了まで見られる日程を選び、終了日と振り返る日を先に決めます。期間中に対象が発生しなければ未実施、確認が終わらなければ未完了とします。固定の日数で効果が分かるとは約束できません。
業務責任者は、条件のそろった案件で時間と修正内容を読み、変更を続ける、別の工程を直す、記録を簡素にする、のいずれかを決めます。実作業が減っても未完了が増えた場合や、速くても誤りが増えた場合は、改善完了とは扱いません。今回は実測を行っていないため、削減時間・削減率・費用効果は示しません。
全体の進め方はAI業務改善ガイド、支援範囲と費用はサービス・料金をご覧ください。止まる工程が分からない段階でも、相談窓口から状況をお聞かせください。